こんにちは、元東京消防庁消防官のイシカワです。
今回は、元消防官である私が執筆した、作文・小論文試験の模範解答例を紹介します。
一見すると対策が難しい消防官採用試験の作文・小論文試験ですが、良質な解答例を読み、完成形のイメージを掴むことで、攻略の道筋が見えてきます。
また、あすに受験を控えるような方であっても、ここで解答例を読んでおくか否かで、試験の結果が大きく変わる可能性があります。
本記事の解答例が、受験を控える皆さんの一助となれば幸いです。
なお、「そもそも作文・小論文の書き方が分からない」という方は、下記の動画を観ておくと理解が早いです。
以下の解答例は、当塾著作の模範解答ライブラリの一部です。個人学習以外での使用・無断頒布・転載等はご遠慮ください。
東京消防庁1類 平成29年度 第2回 小論文試験
資料「高齢者人口及び割合の推移(昭和25年〜平成28年)」から読み取れる問題点をあげ、その対応策についてあなたの考えを述べなさい。
出典:統計からみた我が国の高齢者(総務省統計局)
模範解答例
資料より、日本の高齢者人口は年々増加しており、特に80歳以上の人口増加が著しいことがわかる。これは医療技術や社会保障制度の高度化に伴い、平均寿命が上昇したものと考えられる。一方、総人口に占める高齢者割合に着目すると、昭和25年に4.9%であった65歳以上の人口割合は、平成28年には27.3%まで上昇している。これは高齢者人口が増加する一方、少子化による年少人口の減少が続いているものと考えられる。現在の日本は国連が定める「超高齢社会」に該当しており、社会保障費の支え手不足や、労働人口減少に伴う経済規模の縮小などが危惧されている。豊かな日本社会を今後も維持するためには、年少人口を増加させ、高齢者の社会参画を促す取り組みが必要である。
まず年少人口を増加させるための取り組みとして、教育の無償化が必要である。子育て世代にとって悩ましい教育費の問題を国が支援することで、子供を安心して育てられる社会環境を実現できると考える。実際、日本政府は幼児教育無償化を令和元年10月から、高等教育無償化を令和2年4月から開始している。世帯所得に応じて多少の支援の差はあるものの、家庭の経済状況に関わらず誰もが進学できる環境が整いつつある。これから子どもを持ちたいと考えている人々に希望を与えるためにも、これらの施策を今後も継続するべきである。
次に高齢者の社会参画を促す取り組みとして、多様な働き方を受け入れる労働環境の整備が必要である。長時間労働を是正し、リモートワークや短時間就業などの働き方を推進することで、体力的な制約を抱える高齢者の労働参加が進むと考える。この取り組みは、労働力不足を解消するための施策であると同時に、高齢者が長い人生で培ってきた経験や知識を社会に還元する取り組みでもある。少子化解消の目処が立たず、限られた労働力で社会システムを維持しなければならない現状だからこそ、高齢者の就業機会確保に向けた取り組みが重要である。
社会の高齢化に伴い、我々日本人の生活は大きく変容しようとしている。現在は地方都市における高齢化が先行しているものの、今後は大都市においても高齢化が急速に進むといわれている。特に人口が一極集中する東京都の高齢化は、医療・介護制度の逼迫を招きかねない。日本の活力を維持し、誰もが安心して暮らせる社会を実現するためには、高齢者の社会参画はもちろん、次世代を担う子供たちを社会全体で育成しなければならない。高齢者と若者が手を取り合い、ともに社会を支え合えるような仕組みの構築が急務である。(1,054字)
東京消防庁3類 令和2年度 作文試験
これからあなたが働く上で、報告・連絡・相談がなぜ必要なのか、あなたの考えを具体的に述べなさい。
模範解答例
働く上で報告・連絡・相談が必要である理由は、組織で情報を共有し、不具合を最小限にするためである。例えば災害現場において、消防士が負傷したにも関わらず、隊長に連絡も報告もしなかったらどうなるだろうか。また、悲惨な現場を見てトラウマを抱えているにも関わらず、相談できなかったらどうなるだろうか。いずれの状況も後に大きな不具合となり、組織やその職員自身を苦しめるだろう。そして同様の問題が積み重なれば、災害に対峙するという国民からの負託に応えられなくなる。職員同士が連携を深め、互いに支え合いながら業務を遂行するためには、報告・連絡・相談による情報共有が不可欠である。以下、それぞれの意義と必要性について述べる。
まず報告とは、物事の結果を共有するための手段である。例えば、隊長からの指示や命令に対して、隊員が結果や状況を知らせる行為が当てはまる。物事の現状を評価したり、既に起こってしまった問題やミスを発見するためには、報告が必要である。
次に連絡とは、物事の変化を共有するための手段である。例えば、気象条件が変わった、指揮系統が変わった、活動の拠点が変わったなど、物事の変化を知らせる行為が当てはまる。これから起こり得る事態に備えたり、行き違いのないスムーズな連携を実現するためには、連絡が必要である。
最後に相談とは、物事の問題を共有するための手段である。例えば、仕事で大きなストレスを抱えている、消防署の資機材を壊してしまった、報告書の作成が間に合わない、などの問題を共有する行為が当てはまる。個人では対処できない疑問や課題を解決したり、新しいアイデアによって業務の効率化を図るためには、相談が必要である。
以上を踏まえると、報告・連絡・相談が円滑になされている状態とは、全ての情報が滞りなく共有されている状態である。また逆に、この仕組みがしっかり機能しないと、組織のパフォーマンスが低下したり、取り返しのつかない重大な事態を招く可能性がある。時に、人の命を左右する情報を扱う消防組織だからこそ、報告・連絡・相談は間違いなく必要である。(865字)
最頻出論文テーマ・大規模災害対策
消防官採用試験における最頻出テーマのひとつ、「大規模災害対策」の模範解答例です。
「 地震・台風等の大規模災害に対し、消防はどのような対策を講じるべきか、あなたの考えを述べなさい。」という論題を想定しています。
模範解答例
地震・台風等の大規模災害に対し、消防は以下の対策を講じるべきである。
第一に、消防組織の危機対応力を向上させておく必要がある。大規模災害の対応において最も憂慮すべきことは、行政機関がその機能を喪失してしまうことだからである。たとえば先の東日本大震災では、繰り返す余震と津波による役場庁舎の損壊や職員の死傷等により、被災した多くの自治体で行政機関の業務継続が困難となった。消防としてこのような事態を避けるためには、平時より庁舎防護・職員防護のための危機対応訓練を励行するとともに、庁舎の電源や通信機能を多重化するなどの対策を講じ、有事における組織の危機対応力を向上させておかねばならない。
第二に、地域住民の自助共助意識を醸成することが求められる。大規模災害発災直後の状況下では、消防・警察・自衛隊などの「公助」による救援は期待できず、自分の身を自分で守る「自助」、そして周囲の人同士で助け合う「共助」が重要となるからである。住民の自助共助意識を高めるための取り組みとしては、インターネットを活用した情報発信が有効である。特に、ユーチューブやツイッターなどのソーシャルメディアは国民に広く普及しているため、これらのプラットフォーム上で防災知識や災害情報等を発信することで、効率的に住民の自助共助意識を高揚させることができるだろう。
第三に、非常時における受援計画を策定しておかねばらない。大規模災害により被災した自治体が、他の公共団体や民間団体から効率的に人的・物的支援を受け入れるためには、その手順や体制について定めた受援計画が必要となるからである。特に消防の場合、大規模災害発生時には近隣の消防本部からの広域応援隊の派遣が予想される。したがって◯◯市消防本部は、隣接する◯◯市や◯◯県の消防本部との間で広域応援体制の整備を進めるとともに、支援を受けるに当たって事前に準備すべき事項や配慮すべき事項について協議を重ね、実効性の高い受援計画を策定しておかねばならない。
以上が、地震・台風等の大規模災害に対し、消防が講じておくべき対策である。(879字)
おまけ!昇任論文編
時折、受験生の方から「なぜ消防官は肉体労働メインなのに、論作文を重視するのか?」という質問を受けることがあります。このような質問に対し、私はいつも「消防官は、実はめちゃくちゃ文章を書く仕事です」と回答しています。
災害後の報告書作成、火災予防に関する届出審査・書類作成業務、組織内部向けの資料作成など、消防官は事あるごとに文章を書かされます。そして、このような背景から、消防官の階級昇任試験では採用試験とほぼ同様の論文試験が課されます。入庁後にも論文試験があると聞くと、げんなりする方も多いと思いますが、逆に言えば、論文作成のスキルは今後のキャリアにも大きく影響するということです。
ここでは、消防士長昇任試験の予想テーマ解答例をひとつ紹介します。消防士長昇任試験は、皆さんが消防官になった後、最初に受ける昇任試験です。
現役職員を対象とした解答例ですので、やや高度な内容となっていますが、テーマとしては「職場のチームワーク」です。採用試験対策にも通じる内容ですので、” 消防官の視点を知る ” つもりで、ぜひ一読してみてください。
「 消防士長として、どのように職場のチームワークを醸成していくか、あなたの考えを述べよ。」という論題を想定しています。
模範解答例
私は消防士長として、職場のチームワークを醸成するため、以下の取り組みを実践していく。
第一に、あらゆる職務において、誰にでも分かりやすい明確な業務目標を設定していく。業務の目標が曖昧であったり、そもそも目標自体が設定されていなかったりすると、各チームメンバーが同じ認識のもとで協働できないからである。どれだけ優秀な職員を集めたとしても、目的が共有されていない状態では、円滑な業務遂行は困難である。ゆえに私は消防士長として、あらゆる業務の目標を事前に分かりやすい言葉で共有することで、職員同士の協働を促していく。
第二に、積極的なコミュニケーションを通じて、職員同士の信頼関係を構築していく。職員が相互に信頼し合うチームでは、建設的な意見交換が活発になり、大きな成果を上げやすいからだ。また、「いざという時に頼れる仲間がいる」と自覚できる職場環境は、職員個々の心理的安全性を高め、互いに気兼ねなく質問や相談ができる風土を醸成する。職員が一人で問題を抱え込むことなく、互いに協力し合えるようになれば、業務上の不正や事故のリスクも低減され、組織としての信頼性も向上するだろう。ゆえに私は消防士長として、階級や役職にとらわれず、あらゆる立場の職員と分け隔てなくコミュニケーションを図ることで、職場内の信頼関係を構築していく。
第三に、職員全員がそれぞれ違う強みを持っていることを自覚し、個々の適性に応じた仕事を割り振っていく。互いの個性を認め合い、得意分野を活かしやすい業務分担を行うことで、「誰かの弱点を自分の強みでフォローしよう」という相互補完の意識が高まるからだ。また、個人の強みを発揮しやすい職場環境の実現は、多種多様な行政ニーズに応えられる組織環境を整備する上でも重要である。ゆえに私は消防士長として、部下職員の得手不得手を的確に把握していくとともに、その特性に応じた適切な仕事を割り振ることで、チームのパフォーマンスを向上させていく。
グローバル化が進展し、科学技術が急速に発達し続けている現代社会においては、多種多様な知識や視点・技能を活用できるチームの存在が、組織にとって重要な資産となる。このような時勢の中で、◯◯消防本部が今日の消防行政をさらに発展させ、今後も国民生活を守る存在として機能し続けるためには、職員が一丸となって強固なチームワークを醸成していかなければならない。このような自覚のもと、私は消防士長として、◯◯消防本部の組織力向上のために貢献していく。(1033字)
おわりに
今回は、元消防官が書く作文・小論文試験の模範解答例をまとめてみました。
他記事でも述べていますが、作文・小論文対策の基本は、
- 良質な解答例を読む
- 自分で書いてみる
この繰り返しです。
本記事の解答例を参考に、何度も演習を繰り返し、論文スキルに磨きをかけてください。
なお、消防と警察を併願受験する方は、下記の記事で警察官採用試験の論文解答例をまとめていますので、あわせてどうぞ。
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警察官採用試験|論文試験の模範解答例まとめ
2024/4/25
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